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801.
野の花は、そぞろ歩きながら絵画的な快感をもって緑の大地の中の色彩の島としてそれをながめる場合には、ひざをつき、からだをかがめて一本一本それを見て、いちばん美しいものをさがして摘む場合とは、まったくちがって見えるものである。
（ ヘルマン・ヘッセ ）
（ Hermann Hesse ）
802.
花々があって、奥行きのある路地はうつくしい。
（ 長田弘 ）
（ Osada Hiroshi ）
803.
同じように見えるが
きょう咲いた花は
きのう咲いた花と
同じでない
（ 榎本栄一 ）
（ Enomoto Eiichi ）
804.
このまえ、川を見つめたのはいつでしたか。
砂のうえに坐ったのは、草のうえに坐ったのはいつでしたか。
「うつくしい」と、あなたがためらわず言えるものは何ですか。
好きな花を七つ、あげられますか。
（ 長田弘 ）
（ Osada Hiroshi ）
805.
夏の花の好きなひとは、夏に死ぬ。
（ 太宰治 ）
（ Dazai Osamu ）
806.
花は自分の美しさを知らない、そこにおくゆかしさがある。
（ 作者不詳 ）
807.
一枚の花びら、
あるいは道の上の一匹の小さい虫が、
図書室全体のすべての本より
はるかに多くを語り含んでいる、
とぼくは思います。
文字やことばでは
何も言うことはできません。
（ ヘルマン・ヘッセ ）
（ Hermann Hesse ）
808.
生命(いのち)は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ
（ 吉野弘 ）
（ Yoshino Hiroshi ）
809.
日本は、佳(よ)い国だ。
パンが無くなっても、酒が足りなくなっても、花だけは、花だけは、どこの花屋さんの店頭を見ても、いっぱい、いっぱい、紅(あか)、黄、白、紫の色を競い咲き驕(おご)っているではないか。
この美事(みごと)さを、日本よ、世界に誇れ！
（ 太宰治 ）
（ Dazai Osamu ）
810.
きれいな気持ちでいよう
花のような気持ちでいよう
報いをもとめまい
いちばんうつくしくなっていよう
（ 八木重吉 ）
（ Yagi Juukichi ）
811.
花というものは、
華やかなものではないんですな、
本来、素朴なもんですな。
ですから、
飾りたてた部屋には元来、向かんのですよ。
日本間の、何の飾りもない床の間に活(い)けると
引き立つでしょう？
（ 田辺聖子 ）
（ Tanabe Seiko ）
812.
世の中に、おいしい話などありません。
きれいな花にはトゲがあり、きれいな人にはワナがあります。
おいしい話には毒があるのです。
（ 美輪明宏 ）
（ Miwa Akihiro ）
813.
花がみなしぼむように、青春が老いに屈するように、一生の各階段も知恵も徳もみな、その時々に花を開くのであって、永続は許されない。
（ ヘルマン・ヘッセ ）
（ Hermann Hesse ）
814.
散りゆく花は、風を怨もうとはしない。
花は自分にめぐまれただけの本分をはたして、しずかに散ってゆく。
（ 九条武子 ）
（ Kujou Takeko ）
815.
ねがわくは花のもとにて春死なむ
そのきさらぎの望月のころ
（ 西行 ）
（ Saigyou ）
816.
西洋風の、カーテンだ、じゅうたんだ、ソファだ、画(え)だと
ごてごてしてる間(ま)の中に、活けられた花は
造花のようで死んでしまう。
（ 田辺聖子 ）
（ Tanabe Seiko ）
817.
ただここに在(あ)るだけで、
じぶんのすべてを、損なうことなく、
誇ることなく、みずから
みごとに生きられるということの、
なんという、花の木たちの奇跡。
きみはまず風景を慈しめよ。
すべては、それからだ。
（ 長田弘 ）
（ Osada Hiroshi ）
818.
見ずや君　あすは散りなん　花だにも　力のかぎり　ひと時を咲く
（ 九条武子 ）
（ Kujou Takeko ）
819.
花たちではないだろうか。
人ではない。わたしたちが
歴史とよんできた風景の主人公は。
（ 長田弘 ）
（ Osada Hiroshi ）
820.
花は、しぼまぬうちこそ、花である。
美しい間に、剪(き)らなければならぬ。
（ 太宰治 ）
（ Dazai Osamu ）
821.
自分には何の責任もないように思っているふしがあるが、それはとんでもないことだ。
蒔いた種のとおりに花が咲くのである。
（ 中村天風 ）
（ Nakamura Tenpuu ）
822.
空のように　きれいになれるものなら
花のように　しずかに　なれるものなら
値（あたい）なきものとして
これも　捨てよう　あれも　捨てよう
（ 八木重吉 ）
（ Yagi Juukichi ）
823.
大人が自然から発足するのと同じように、赤ん坊も、ある意味で自然から出発する。
したがって、発育の初期にある赤ん坊は、自然と一体であり、実に自然が咲かせた花そのものである。
（ ヘンリー・デイヴィッド・ソロー ）
（ Henry David Thoreau ）
824.
目の前に咲きこぼれる、あざやかな
花々の名を、どれだけ知っているだろう？
何を知っているだろう？　何のたくらむところなく、
日々をうつくしくしているものらについて。
（ 長田弘 ）
（ Osada Hiroshi ）
825.
徒(いたず)らにことばで語ってはいけないのだ。
花たちのように、みずからの
在り方によって語るのだ。
（ 長田弘 ）
（ Osada Hiroshi ）
826.
括(くく)られて咲くものばかり冬の庭
（ 後藤比奈夫 ）
（ Gotou Hinao ）
827.
頬杖や土のなかより春はくる
（ 大木あまり ）
（ Ooki Amari ）
828.
さくら咲く山河に生まれ短気なり
（ 大木あまり ）
（ Ooki Amari ）
829.
もてなしの心を花に語らしめ
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）
830.
人去つて冴ゆるほかなき夕ざくら
（ 太田鴻村 ）
（ Oota Kouson ）

831.
花さく日さへわがひとり
花ちる日さへわがひとり
ふたりの人やいかにして
いかなる花を見るやらむ
（ 佐藤春夫 ）
（ Satou Haruo ）
832.
牡丹(ぼたん)の句百句作れば死ぬもよし
（ 原石鼎 ）
（ Hara Sekitei ）
833.
一落花風をつかまへ舞ひ上がる
（ 河内静魚 ）
（ Kawauchi Shizuo ）
834.
花の宿風が二階へ三階へ
（ 西村麒麟 ）
（ Nishimura Kirin ）
835.
夕顔に水仕(みずし)もすみてたゝずめり
（ 杉田久女 ）
（ Sugita Hisajo ）
836.
菫(すみれ)ほどの小さき人に生れたし
（ 夏目漱石 ）
（ Natsume Souseki ）
837.
〈今〉を掛けがえなく生きるとは
〈今〉がもたらす〈楽しさ〉を十全に味わうことだ。
逆に言うと
〈楽しさ〉を感じることが
〈今〉を本当に生きるということなのだ。
花の世話をして楽しかったら、
そのとき〈今〉を生きていたのだ。
（ 辻邦生 ）
（ Tsuji Kunio ）
838.
まさをなる空よりしだれざくらかな
（ 富安風生 ）
（ Tomiyasu Fuusei ）
839.
返り咲くたんぽぽに茎なかりけり
（ 福神規子 ）
（ Fukujin Noriko ）
840.
犬の仔の直(す)ぐにおとなや草の花
（ 広渡敬雄 ）

841.
窓の外に白き八つ手の花咲きて
こころ寂しき冬は来にけり
（ 島木赤彦 ）
（ Shimaki Akahiko ）
842.
立ち昇る雲なり鉄砲百合ひらく
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
843.
野の色に紫加へ濃りんだう(こりんどう)
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
844.
衰へし落花ぞ人を行かしむる
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）
845.
たましひのしづかにうつる菊見かな
（ 飯田蛇笏 ）
（ Iida Dakotsu ）
846.
ぱつぱつと紅梅老樹花咲けり
（ 飯田蛇笏 ）
（ Iida Dakotsu ）
847.
花満ちて久遠の雲といふべしや
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
848.
バラに似て　妻も花散り　トゲ残し
（ 中村利之 ）
849.
まんじゆさげ雲の間より日の柱
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
850.
つつまれてゐて薔薇の香を 忘れをり
（ 今橋眞理子 ）
（ Imahashi Mariko ）

851.
私は「鍋料理」の材料の盛り方一つにしても、
生け花と寸分ちがわないと思っている。
（ 北大路魯山人 ）
（ Rosanjin ）
852.
今日名残(なご)り明日(あす)は名残りと花を見に
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
853.
冬薔薇(ふゆそうび)咲き切る力秘めながら
（ 今橋眞理子 ）
（ Imahashi Mariko ）
854.
満開の桜が時を止めてをり
（ 今橋眞理子 ）
（ Imahashi Mariko ）
855.
君恋ひて世を経る宿の梅の花
昔の香(か)にぞなほ匂(にほ)ひける
（ 紀貫之 ）
（ Kino Tsurayuki ）
856.
だまされて来て誠也(まことなり)初さくら
（ 加賀千代女 ）
（ Kagano Chiyojo ）
857.
たからとは今日の命ぞ初さくら
（ 加賀千代女 ）
（ Kagano Chiyojo ）
858.
赤置いて白華(はな)やげりシクラメン
（ 今橋眞理子 ）
（ Imahashi Mariko ）
859.
朝顔やつるべとられてもらひ水
（ 加賀千代女 ）
（ Kagano Chiyojo ）
860.
風は季節や時間の動きと同義であった。
言いかえれば、風は自然の生成流転や生命時計の役割を荷っていることになる。
だから風のなかにいる虫は、花やすべての生きものたちの代表として、生命あるものを象徴しているのではあるまいか。
（ 穴井太 ）
（ Anai Futoshi ）

861.
夜桜の大きな繭の中にゐる
（ 行方克巳 ）
（ Namekata Katsumi ）
862.
生きてふるへるはなびらのことごとく
（ 中岡毅雄 ）
（ Nakaoka Takeo ）
863.
行き帰りみんな横顔桜人(さくらびと)
（ 武田肇 ）
（ Takeda Hajime ）
864.
花いまだ三分の夕べ風邪ひきぬ
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
865.
朝顔は日まけをしてやはなひしげ
（ 松江重頼 ）
（ Matsue Shigeyori ）
866.
耕人に傾き咲けり山ざくら
（ 大串章 ）
（ Oogushi Akira ）
867.
ちる花のあはたゞしさよ昨日今日
（ 飯田蛇笏 ）
（ Iida Dakotsu ）
868.
咲き満ちて花に放心あるごとし
（ 辰巳あした ）
（ Tatsumi Ashita ）
869.
無人駅牛乳瓶に草の花
（ 本宮哲郎 ）
（ Motomiya Tetsurou ）
870.
生け花と言うのは、
自然の草や木を自然にあるままに活かそうというので、
そのためにいろいろ工夫をする。
料理も自然、天然の材料を人間の味覚に満足を与えるように活かし、
その上、目もよろこばせ、愉しませる
美しさを発揮さすべきだと思う。
（ 北大路魯山人 ）
（ Rosanjin ）

871.
学生でなくなりし日の桜かな
（ 西村麒麟 ）
（ Nishimura Kirin ）
872.
落ちる時椿に肉の重さあり
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
873.
琴詩酒(きんししゅ)の友皆我を擲(なげう)つ
雪月花(せつげつか)の時に最も君を憶(おも)ふ
（ 白居易 ）
（ Haku Kyoi ）
874.
うつぶして華(はな)こそ勁(つよ)し葦(あし)の華
（ 竹下しづの女 ）
（ Takeshita Sizunojo ）
875.
曼珠沙華(まんじゅしゃげ)あたりに他の花寄せず
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
876.
楼上(ろうじょう)に客たり花は主(あるじ)たり
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）
877.
咲き満ちてこぼるる花もなかりけり
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）
878.
返り花(ばな)きらりと人を引きとどめ
（ 皆吉爽雨 ）
（ Minayoshi Souu ）
879.
人間の独自性は
安定し連続した環境においてのみ
開花し持続しうる。
現代社会に特有の、
生活のあらゆる部門の絶え間ない根底的変化は、
人間の本性に敵対するものである。
（ エリック・ホッファー ）
（ Eric Hoffer ）
880.
皆が絵画を理解したがる。
そのくせ、鳥の唄を理解したがりはしないのだ。
人は
夜とか、花とか、あたりにあるものを
理解しようともしないで愛するではないか？
ところが絵画については
理解したいと欲する。
（ パブロ・ピカソ ）
（ Pablo Picasso ）

881.
新興国は
芽を出すか出さぬかのうちに
花を咲かせ実を結びたがり、
多くは人工の花や実でみずからを飾りたてたのである。
（ エリック・ホッファー ）
（ Eric Hoffer ）
882.
あいたくて
あいたくて
あいたくて
あいたくて
…
きょうも
わたげをとばします
（ 工藤直子 ）
（ Kudou Naoko ）
883.
近づけば歩み去る人返り花
（ 池内友次郎 ）
（ Ikenouchi Tomojirou ）
884.
白い幽霊世界の住人なんかになるよりも、
わたしは死ねば
一羽の白鳩か一茎のアネモネの花になりたいのであります。
そう思う方が
生きている時の心の愛が
どんなに広々とのびやかなことでありましょう。
（ 川端康成 ）
（ Kawabata Yasunari ）
885.
よろこびはかなしみに似し冬牡丹(ふゆぼたん)
（ 山口青邨 ）
（ Yamaguchi Seison ）
886.
弥生の末(すえ)から、
些(ちょっ)とずつの遅速はあっても、
花は一時(いっとき)に咲くので、
その一(ひと)ならびの堀の内に、
桃、紅梅、椿も桜も、
あるいは満開に、あるいは初々(ういうい)しい花に、
色香を装っている。
（ 泉鏡花 ）
（ Izumi Kyouka ）
887.
花に会ふための言葉を胸に秘め
（ 後藤比奈夫 ）
（ Gotou Hinao ）
888.
心音(しんおん)がことりと狂ふ花の下
（ 橋本美代子 ）
（ Hashimoto Miyoko ）
889.
美しきもののみ見せて花篝(はなかがり)
（ 荻原正三 ）
（ Hagiwara Shouzou ）
890.
木の枝を伸び放題にしておくと咲く花も咲かなくなってしまう。
剪定(せんてい)が行われるゆえんである。
切った枝のあとからは若枝がいくつも出てくる。
言葉の枝も切るとそこからいくつもの連想の新芽が出る。
それで表現に立体的多元性ともいうべきものが具わるし、表現の生命も強まるのである。
（ 外山滋比古 ）
（ Toyama Sigehiko ）

891.
金というものは
食物のように、
私を通して流れ、
得られるままに費やされ、ふりまかれ、
花や本や美しいものに姿を変えられ、
創造する人々や困っている人々には
贈られるべきものだ。
（ メイ・サートン ）
（ May Sarton ）
892.
曼殊沙華(まんじゅしゃげ)赤衣(せきい)の僧のすくと佇(た)つ
（ 角川源義 ）
（ Kadokawa Genyoshi ）
893.
世界をそのままに、
求めるところなく、単純に、
幼児のように観察すると、
世界は美しかった。
月と星は美しかった。
小川と岸は、森と岩は、
ヤギとコガネ虫は、花とチョウは
美しかった。
（ ヘルマン・ヘッセ ）
（ Hermann Hesse ）
894.
死ぬまでは人それよりは花びらに
（ 大木あまり ）
（ Ooki Amari ）
895.
帰り花つけてかへつて淋しき枝
（ 後藤比奈夫 ）
（ Gotou Hinao ）
896.
花了(お)へてひとしほ一人静かな
（ 後藤比奈夫 ）
（ Gotou Hinao ）
897.
桜さく前より紅気(こうき)立ちこめて
（ 山口誓子 ）
（ Yamaguchi Seishi ）
898.
ちひさなる花雄々しけれ矢筈草(やはずそう)
（ 竹下しづの女 ）
（ Takeshita Sizunojo ）
899.
花について
花は僕の姉妹たち
（ アレキサンダー・ポープ ）
（ Alexander Pope ）
900.
貧乏な天使が　小鳥に変装する
枝に来て　それはうたふ
わざとたのしい唄を
すると庭がだまされて
小さい薔薇の花をつける

名前のかげで暦(こよみ)は時々ずるをする
けれど　人はそれを信用する
（ 立原道造 ）
（ Tachihara Michizou ）

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