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太宰治の名言
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1101.
日本の人は、みな、襷(たすきがけ)です。
ムキです。
まじめです。
1102.
人間はいつか必ず死ぬものです。
自分の好きな路(みち)に進んで、努力してそうして中途でたおれたとて、僕は本望です。
1103.
「きょうは、少し調子づいているようですね。」
「そうです。
　芸術は、その時の調子で出来ます。」
1104.
人を審判する場合。
それは自分に、しかばねを、神を、感じているときだ。
1105.
先輩というものがある。
そうして、その先輩というものは、「永遠に」私たちより偉いもののようである。
彼らの、その、「先輩」というハンデキャップは、殆(ほとん)ど暴力と同じくらいに荒々しいものである。
1106.
お前の心から暗黒を放逐(ほうちく)し、不自然でもかまわぬ、明るい光を添えて見ろ。
1107.
落下傘(らっかさん)で降下して、草原にすとんと着く、しいんとしている。
自分ひとり。
さすがの勇士たちもこの時は淋しいそうだ。
1108.
花は、しぼまぬうちこそ、花である。
美しい間に、剪(き)らなければならぬ。
1109.
アレモ人ノ子。
生キテイル。
1110.
創作に於(お)いて最も当然に努めなければならぬ事は、〈正確を期する事〉であります。
その他には、何もありません。
風車が悪魔に見えた時には、ためらわず悪魔の描写をなすべきであります。
また風車が、やはり風車以外のものには見えなかった時は、そのまま風車の描写をするがよい。
1111.
結局、ひとりで考えて、ひとりで行動するより他は無いのだ。
1112.
厳粛＝阿呆感
1113.
むかしの花火つくりの名人は、打ちあげられて、玉が空中でぽんと割れる、あの音に最も苦心を払った。
花火は聞くもの。
1114.
お酒飲みというものは、お酒を飲んでいない時には意気地が無くてからきし駄目でも、酔っている時には、かえって衆にすぐれて度胸のいいところなど、見せてくれるものである。
1115.
利巧ぶったら、損をする。
1116.
日本には「誠」という倫理はあっても、「純真」なんて概念は無かった。
人が「純真」と銘打っているものの姿を見ると、たいてい演技だ。
演技でなければ、阿呆である。
1117.
学問ハオ好キデスカ。
無理カモ知レマセヌガ、ソレダケガ生キル道デス。
1118.
軽薄な野心家には、都ほど住みよいところはありません。
1119.
私は女ぎらいだから、知っている女は一人も無い。
いやこれは逆かも知れない。
知っている女が一人も無いから、女ぎらいなのかも知れない。
1120.
人間は、どこにいても、また何をするにしても、ただひとつ、「正しさ」という事ひとつだけを心掛けて居ればいいのだ。
1121.
われとわが作品へ、一言の説明、半句の弁解、作家にとっては致命の恥辱。
1122.
君は、君の好ききらいに、もっとわがままであって、いいんだぜ。
きらいな奴は、これは、だめさ。
どんなに、つき合ったって、好きになれるものじゃない。
1123.
人間は、こぶしを固く握りながら笑えるものでは無いのである。
1124.
女が、戦争の勝敗の鍵(かぎ)を握っている。
1125.
尊敬して居ればこそ、安心して甘えるのだ。
1126.
勇気を得たのなんのと、その場かぎりの興奮から軽薄な大袈裟(おおげさ)な事ばかりを言い散らす人は、昔から、なまけものの、お体裁屋(ていさいや)にきまって居ります。
1127.
人からおだてられて得た自信なんてなんにもならない。
1128.
文学とは、恋愛を書く事ではないのかしら。
1129.
人間は、めしを食べなければ死ぬから、そのために働いて、めしを食べなければならぬ。
1130.
私は、「人間は人間に服従しない」あるいは、「人間は人間を征服出来ない、つまり、家来にすることが出来ない」それが民主主義の発祥の思想だと考えている。

1131.
道徳の善悪よりも、感覚の好き嫌ひに依(よ)って世の中の人たちはその日常生活に於(お)いて互いに罵(ののし)り、または罰し、または賞し、または服しているものだ。
1132.
上は、ナポレオン、ミケランジェロ、下は、伊藤博文、尾崎紅葉にいたるまで、そのすべての仕事は、みんな物狂いの状態から発したものなのか。
然(しか)り。
間違いなし。
1133.
この世の中に於(お)ける私の現実の生活ばかりを見て、私の全部を了解することは、他の人たちには不可能であろう。
と同時に、私もまた、ほかの人たちに就(つ)いて、何の理解するところも無いのである。
1134.
ただもう「ふとした事」で恋愛が成立するものとしたら、それは実に卑猥(ひわい)な世相になってしまうであろう。
恋愛は意志に依るべきである。
恋愛チャンス説は、淫乱(いんらん)に近い。
1135.
作家にはその作品の価値がわからぬというのが小説道の常識である。
1136.
人間には、はじめから理想なんて、ないんだ。
あってもそれは、日常生活に即した理想だ。
生活を離れた理想は、――ああ、それは、十字架へ行く路(みち)なんだ。
そうして、それは神の子の路である。
1137.
人に不義理はしていねえ、という事が唯一の誇りだとか言っているが、無理なつき合いはしたくねえ、というケチな言葉も、その裏にはありはしないか。
1138.
芸術に、意義や利益の効能書を、ほしがる人は、かえって、自分の生きていることに自信を持てない病弱者なのだ。
1139.
声の大なる言葉のほうが、「真理」に化す。
ばか、と言われた時には、その二倍、三倍の大声で、ばか、と言い返せよ。
1140.
素朴な、自然のもの、従つて簡潔な鮮明なもの、そいつをさつと一挙動で掴まへて、そのままに紙にうつしとること、それより他には無い。

1141.
ケチなやつからお説教されて、眼がさめたなんて者は、古今東西にわたって一人もあった例(ためし)が無えんだ。
1142.
これは弱い性格の人間の特徴かも知れませんが、（私には）人が余り騒ぐような、また尊敬しているような作品には一応、疑惑を持つ癖があります。
1143.
なあに、いいやつには、言わなくたってちゃんとわかっているのだから。
1144.
お礼には、誠実な「ありがとう」の一言で充分だと思う。
他に、どんな言葉が要るのですか。
1145.
ほんものの幻滅は、人間を全く呆(ぼ)けさせるか、それとも自殺させるか、おそろしい魔物である。
1146.
純粋に二人きりの、のんきな交友など、この世に存在をゆるされないものかも知れない。
必ず第三者の牽制(けんせい)やら猜疑(さいぎ)やら嘲笑(ちょうしょう)やらが介入するもののようである。
1147.
和というのは、決して消極的なものではないのです。
1148.
僕はもう何も言うまい。
言えば言うほど、僕はなんにも言っていない。
1149.
あのね、読んで面白くない小説はね、それは、下手な小説なのです。
面白くない小説は、きっぱり拒否したほうがいいのです。
1150.
人間は、いや、男は、（おれはすぐれている）（おれにはいいところがあるんだ）などと思わずに、生きて行く事が出来ぬものか。

1151.
名前を知られたって、ろくな事は無いのだし、別段、自分の無名を残念がってもいないのであるが、でも、世間の人は、無名の人の文章は（お互いいそがしいのだから）てんで読もうとしないので、困るのである。
1152.
「芸術的」という、あやふやな装飾の観念を捨てたらよい。
1153.
くたびれたら寝ころべ！
1154.
世の中の人というものは、
お互い、こわばった挨拶をして、
用心して、そうしてお互いに疲れて、
一生を送るものなのでしょうか。
1155.
ああ、あざむけ、あざむけ。
ひとたびあざむけば、君、死ぬるとも告白、ざんげしてはいけない。
胸の秘密、絶対ひみつのまま、狡智(こうち)の極致、誰にも打ちあけずに、そのまま息を静かにひきとれ。
やがて冥途(めいど)とやらへ行って、いや、そこでもだまって微笑(ほほえ)むのみ、誰にも言うな。
あざむけ、あざむけ、巧みにあざむけ、神より上手にあざむけ、あざむけ。
1156.
人の心は、実にたわいが無いものだ。
風に吹かれる葦(あ)しみたいに、右にでも左にでも、たやすく靡(なび)く。
1157.
世間は、わからない。
1158.
芸術は試合でないのである。
奉仕である。
読むものをして傷つけまいとする奉仕である。
けれども、傷つけられて喜ぶ変態者も多いようだからかなわぬ。
1159.
芸術の道は、しかく難(かた)い。
若き人よ。
これを畏(おそ)れて畏れすぎることはない。
1160.
信じて敗北する事に於(お)いて、悔いは無い。
むしろ永遠の勝利だ。
それゆえ人に笑われても恥辱(ちじょく)とは思わぬ。
けれども、ああ、信じて成功したいものだ。
この歓喜！

1161.
あの道（＝文芸の道）は、好きでなければ、やって行けるものでないような気がする。
1162.
人間が、人間に奉仕するというのは、悪い事であろうか。
1163.
私は家庭に在(あ)っては、いつも冗談を言っている。
それこそ「心には悩みわずらう」事の多いゆえに、「おもてには快楽(けらく)」をよそわざるを得ない。
1164.
元来、作者と評者と読者の関係は、例えば正三角形の各頂点の位置にあるものだと思われる。
△の如き位置に、各々外を向いて坐っていたのでは話にもならないが、各々内側に向い合って腰を掛け、作者は語り、読者は聞き、評者は、或(ある)いは作者の話に相槌(あいづち)を打ち、或いは不審を訊(ただ)し、或いは読者に代って、そのストップを乞う。
1165.
（小説の）読者は、その説明文に頼り過ぎていけない。
作品以外に説明文を熱心に読む傾向があるから、いけない。
とにかく、悪い癖である。
作者だって、自作に就(つ)いて的確な説明は、容易に出来るものでない。
1166.
人は、けっして人を嘲(あざわら)うべきものではない。
1167.
今の若い人たちは、なんにも知らぬ振りをして子供っぽい口をきいて私たちを笑わせながら、実は、どうして、ちゃっかり俗な打算をしているのだから、いやになります。
ほんとうに、抜け目がなくて、ずるいんだから。
1168.
女は（私を）引き寄せて、つっ放す、
或(ある)いはまた、女は、人のいるところでは自分（＝私）をさげすみ、邪慳(じゃけん)にし、誰もいなくなると、ひしと抱きしめる
1169.
読者が、読んでわからなかったら、それまでの話だ。
1170.
いつも自分のところへ遊びに来ている人が、自分の知らぬまに、自分を批評してゐるような小論文を書いているのを、偶然に雑誌あるいは新聞で見つけた時には、実に、案外な気がするものである。
その論の、当、不当にかかわらず、なんだか水臭い、裏切りに似たものをさえ感ずるのは、私だけであろうか。

1171.
人間は皆、自分の毎日の生活に触れて来たものだけを考えて、それで一ぱいのものだわよ。
自分の暮しに何の関係も無い、遠方にいる人の事なんか、たまあにはね、思い出す事もあるでしょうけど、いつのまにやら忘れてしまうものだわ。
1172.
無言の愛の表現など、いまだこの世に実証ゆるされていないのではないか。
1173.
不良でない人間があるだろうか。
1174.
駄目だかどうだか、自分で実際やってみて転倒して傷ついて、それからでなければ言えない言葉だ。
1175.
文芸が無ければ、この世の中は、すきまだらけです。
文芸は、その不公平な空洞を、水が低きに流れるように自然に充溢(じゅういつ)させて行くのです。
1176.
私をだますなら、きっと巧みにだまして下さい、完璧(かんぺき)にだまして下さい。
1177.
文学のためにわがままをするというのは、いいことだ。
社会的には二十円三十円のわがまま、それをさえできず、いま更なんの文学ぞや。
1178.
〈芸術的〉という、あやふやな装飾の観念を捨てたらよい。
1179.
純粋を追うて、窒息するよりは、私は濁っても大きくなりたいのである。
1180.
革命は、ひとが楽に生きるために行うものです。
悲壮な顔の革命家を、私は信用いたしません。

1181.
（文学・芸術・料理に）宿酔(ふつかよい)（＝翌朝までの余韻）を求める気持は、下等である。
やめたほうがよい。
1182.
作品の最後の一行に於(おい)て読者に背負い投げを食わせるのは、あまりいい味のものでもなかろう。
所謂(いわゆる)「落ち」を、ひた隠しに隠して、にゅっと出る、それを、並々ならぬ才能と見做(みな)す先輩はあわれむべき哉(かな)。
1183.
美男子というものは、顔が小さくきちんとまとまっているものである。
顔の非常に大きい美男子というのは、あまり実例が無いように思われる。
想像する事も、むずかしい。
1184.
疑いながら、ためしに右へ曲るのも、信じて断乎として右へ曲るのも、その運命は同じ事です。
どっちにしたって引返すことは出来ないんだ。
試みたとたんに、あなたの運命がちゃんときめられてしまうのだ。
人生には試みなんて、存在しないんだ。
やってみるのは、やったのと同じだ。
1185.
もっとも世俗を気にしている者は、芸術家である。
1186.
闘争の対象の無い自由思想は、まるでそれこそ真空管の中ではばたいている鳩のようなもので、全く飛翔(ひしょう)が出来ません。
1187.
甘さを軽蔑する事くらい容易な業は無い。
そうして人は、案外、甘さの中に生きている。
1188.
世に、半可通ほどおそろしいものは無い。
こいつらは、十年前に覚えた定義を、そのまま暗記しているだけだ。
そうして新しい現実をその一つ覚えの定義に押し込めようと試みる。
1189.
いったい何だってそんなに、自分でえらがっているのか。
自分ももう駄目ではないかという反省を感じたことがないのか。
強がることはやめなさい。
人相が悪いじゃないか。
1190.
川というものは、海に流れ込む直前の一箇所で、奇妙に躊躇(ちゅうちょ)して逆流するかのように流れが鈍くなるものである。
私の青春も川から海へ流れ込む直前であったのであろう。

1191.
信じるところに現実はあるのであって、現実は決して人を信じさせる事が出来ない。
1192.
僕の自殺を非難し、あくまでも生き伸びるべきであった、と僕になんの助力も与えず口先だけで、したり顔に批判するひとは、陛下に菓物屋(くだものや)をおひらきなさるよう平気でおすすめ出来るほどの大偉人にちがいございませぬ。
1193.
学問とは、虚栄の別名である。
人間が人間でなくなろうとする努力である。
1194.
ああ、人間の生活って、あんまりみじめ。
生れて来ないほうがよかったとみんなが考えているこの現実。
そうして毎日、朝から晩まで、はかなく何かを待っている。
みじめすぎます。
生れて来てよかったと、ああ、いのちを、人間を、世の中を、よろこんでみとうございます。
1195.
正しいひとは、苦しい筈(はず)が無い。
1196.
女が急に泣き出したりした場合、何か甘いものを手渡してやると、それを食べて機嫌を直す。
1197.
気弱い内省の窮極からでなければ、真に崇厳な光明は発し得ない。
1198.
かりそめの、人のなさけの身にしみて、まなこ、うるむも、老いのはじめや。
1199.
自惚(うぬぼれ)が無ければ、恋愛も何も成立できやしません。
1200.
（人の）起こした間違いは仕方のねえ事として、その間違いをそれ以上に大きな騒ぎにしないように努めるのが、まごころというものでないか。

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