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偉いやつは、やたらに淋しがったり泣いたりなんかしない、
過剰な感傷がないのだ、 平気で孤独に堪えている。 太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948) 『鉄面皮』
《 孤独 》
〈全文〉
偉いやつは、やたらに淋しがったり泣いたりなんかしない、 過剰な感傷がないのだ、 平気で孤独に堪えている、 君のようにお父さんからちょっと叱られたくらいでその孤独の苦しさを語り合いたいなんて、友人を訪問するような事はしない、 女だって君よりは孤独に堪える力を持っている、 女、三界に家なし、というじゃないか、 自分がその家に生れても、いつかはお嫁に行かなければならぬのだから、父母の家も謂(い)わば寓居(ぐうきょ)だ、 お嫁に行ったって、家風に合わなければ離縁される事もあるのだし、離縁されたらこいつは悲惨だ、どこにも行くところがない、 離縁されなくたって、夫が死んだら、どうなるか、 子供があったら、まあその子供の家にお世話になるという事になるんだろうが、これだって自分の家ではない、寓居だ、 そのように三界に家なしと言われる程の女が、別にその孤独を嘆ずるわけでもなし、あくせくと針仕事やお洗濯をして、夜になると、その他人の家で、すやすやと安眠しているじゃないか、 たいした度胸だ、 君は女にも劣るね、人類の最下等のものだ。
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