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二十世紀後半の世界に生じたのは、宣戦布告もなく、終戦すらない、いつ始まって終わったかも不明な「紛争」です。

[ 出典 ]
長田弘[おさだ・ひろし]
(詩人、1939〜2015)
『すべてきみに宛てた手紙』

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〈抜粋文全文〉
戦争の言葉は、三つあります。
戦争前と、戦争の間と、戦争後の言葉です。

戦争前の言葉は自己本位を正当化し、意味づけと栄光を求めます。
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しかし戦争になるや、言葉は意味を失います。
いったん戦争が始まれば、そこにはもう、倒すべき「敵」しか存在しません。
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攻撃は今は、コンピューターの中の「敵」という目標を攻撃することです。
けれども、「敵」をやっつけるのが戦争ですが、壊れるのは自然であり、失われるのは生活であり、死ぬのは人間です。
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言葉は、人間とわかちがたく結びついている。
戦争は人間の言葉を、人間のいない言葉にします。


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戦争の言葉で信じられるのは、無言の言葉だけです。
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戦争後の言葉は、どうか。
戦争に勝った側にのこるのは、戦争の理念です。
戦争の理念というのは、「戦争は解決である」と信じること。
戦争に敗れた側は、戦争の理念を失います。
戦争の理念を失うというのは、「戦争は解決ではない」と思い知ることです。
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二十世紀後半の世界に生じたのは、宣戦布告もなく、終戦すらない、いつ始まって終わったかも不明な「紛争」です。
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「敵」しかいない「紛争」には、戦前・戦中・戦後の別がありません。
言葉を無意味にする戦闘だけが、全部です。
国境を武力で閉ざし、異なる文化、異なる国々に心を閉ざすのが戦争ですが、__ Link __
昭和の戦争に敗れた日本が手にしてきたのは、「戦争は解決ではない」と思い知った、戦争後の言葉です。

言葉の本質をなすものは、経験をくみあげて、新しい概念をつくりだす力。
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今の日本でかつてなく弱まっているものは、経済の競争力のみならず、人間を生き生きとさせる、言葉のもつ普遍的な力です。
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