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いま自分に触れていった風には、
二度と触れることはできない、 どんな方法をもちいても、 いちど自分を吹き去っていった風には もう二度と触れることはできない。 山本周五郎[やまもと・しゅうごろう]
(大正〜昭和の小説家、1903〜1967) 『あだこ』
〈原文全文〉
おれは風が向うから吹いて来て、そして吹き去ってゆくのを感じていた、 そのうちにふと、 いま自分に触れていった風には、 二度と触れることはできない、 ということを考えた、 どんな方法をもちいても、 いちど自分を吹き去っていった風には もう二度と触れることはできない── そう思ったとき、 おれは胸を押しつぶされるような息苦しさ、 自分だけが深い井戸の底にいるような、 まっ暗な怖ろしさに圧倒された。
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