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[ 名言 ]
例えば、物忘れがひどくなったのが呆(ぼ)けた事なら、
呆けた事など大した事ではあるまい。
詰まらない事を、あんまり覚え過ぎたから、
いっそさっぱりしているようなものだ。

[ 出典 ]
小林秀雄[こばやし・ひでお]
(文芸評論家、1902〜1983)
「生と死」
『小林秀雄全作品 第26集:信ずることと知ること』(新潮社刊)に収載

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〈全文〉
例えば、物忘れがひどくなったのが呆(ぼ)けた事なら、
呆けた事など大した事ではあるまい。
詰まらない事を、あんまり覚え過ぎたから、
いっそさっぱりしているようなものだ。
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呆けたという特色は、そんなものではない。
棺桶に確実に片足をつっ込んだという実感です。

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人は死ぬもの(であること)ぐらいは、
誰も承知している。
私も若い頃、生死について考え、
いっそ死んで了(しま)おうかと思いつめた事があるが、
今ではもう死は、
そういう風に、問題として現れるのではない。
言わば、手応(てごた)えのある姿をしています。
先(せん)だっても、片付けものをしていたら、
昔、友達と一緒に写した写真が出て来た。
六人のうち、四人はもういないのだな、
と私は独り言を言います。
その姿が見えるからです。


■(続き:抽出)棺桶に片足をつっ込むというような言葉は、
決して机上からは生まれなかった。
経験が生んだものだ。
これは面白い言葉だ
などと青年が言ったら滑稽でしょうが、
この言葉が味わえぬような老年は
不具な老年と言っていいでしょう。
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