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人間というものは、
生れて来る時に下駄を穿(は)いて来なかったせいか、 身投でもして死ぬる時には きっと履物を脱いでいる。 それもそこらへだらしなく放り出さないで、 きちんと爪先を揃えたまま脱ぎ捨てている。 まるで借りた物を返すといった風だ。 薄田泣菫[すすきだ・きゅうきん]
(詩人、随筆家、1877〜1945) 『茶話』
〈全文〉
人間というものは、 生れて来る時に下駄を穿(は)いて来なかったせいか、 身投でもして死ぬる時には きっと履物を脱いでいる。 それもそこらへだらしなく放り出さないで、 きちんと爪先を揃えたまま脱ぎ捨てている。 まるで借りた物を返すといった風だ。 __ Link __ 得て身投でもする人は、 借りた金を返さないような輩に多いが、 履物だけは自分の持合せでありながら、 借物ででもあるように きちんと取り揃えている。 __ Link __ だから芝居でもそれに倣(なら)って、舞台で情死者の身投をする時には、俳優は定ったように履物を揃える。
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