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日々にごくありふれた、むしろささやかな光景のなかに、わたし(たち)にとっての、取り換えようのない人生の本質はひそんでいる。
それが、物言わぬものらの声が、わたしにおしえてくれた「奇跡」の定義だ。

[ 出典 ]
長田弘[おさだ・ひろし]
(詩人、1939〜2015)
詩集『奇跡−ミラクル−』
あとがきより

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[ 全文・続き ]
〈抜粋文全文〉
ふと、呼びかけられたように感じて、立ちどまる。
見まわしても、誰もいない。
ただ、じぶんを呼びとめる小さな声が、どこからか聞こえて、しばらくその声に耳を澄ますということが、いつのころからか頻繁に生じるようになった。

それは風の声のようだったり、空の声のようだったり、道々の声のようだったり、花々や樹々の声のようだったり、小道の奥のほうの声のようだったり、朝の声や夜の声のようだったり、遠い記憶のなかの人の声のようだったりした。

そうした、いわば沈黙の声に聴き入るということが、ごくふだんのことのようになるにつれて、物言わぬものらの声を言葉にして記しておくということが、いつかわたしにとって詩を書くことにほかならなくなっているということに気づいた。
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書くとはじぶんに呼びかける声、じぶんを呼びとめる声を書き留めて、言葉にするということである。
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『奇跡─ミラクル─』は、こうして、わたしはこんなふうに、このような声を聴き、それらの声を書き留めてきたという、返答の書となった。

「奇跡」というのは、めったにない稀有(けう)な出来事というのとはちがうと思う。
それは、存在していないものでさえじつはすべて存在しているのだという感じ方をうながすような、心の動きの端緒(たんしょ)、いとぐちとなるもののことだと、わたしには思える。
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日々にごくありふれた、むしろささやかな光景のなかに、わたし(たち)にとっての、取り換えようのない人生の本質はひそんでいる。
それが、物言わぬものらの声が、わたしにおしえてくれた「奇跡」の定義だ。
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たとえば、小さな微笑みは「奇跡」である。
小さな微笑みが失われれば、世界はあたたかみを失うからだ。
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世界というものは、おそらくそのような仕方で、いつのときも一人一人にとって存在してきたし、存在しているし、存在してゆくだろうということを考える。
(後文省略)


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