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およそ世の中に、善意の善人ほど始末に困るものはないのである。
ぼくは善意、純情の善人から、思わぬ迷惑をかけられた苦い経験は数限りなくあるが、聡明な悪人から苦杯を嘗(な)めさせられた覚えは、かえってほとんどないからである。 中野好夫[なかの・よしお]
(英文学者、評論家、1903〜1985) 『悪人礼賛』 〈全文〉
考えてみると、およそ世の中に、善意の善人ほど始末に困るものはないのである。 ぼく自身の記憶からいっても、ぼくは善意、純情の善人から、思わぬ迷惑をかけられた苦い経験は数限りなくあるが、聡明な悪人から苦杯を嘗めさせられた覚えは、かえってほとんどないからである。 __ Link __ 悪人というものは、ぼくにとっては案外始末のよい、付き合い易い人間なのだ。 という意味は、悪人というのは概して聡明な人間に決まっているし、 __ Link __ それに悪というもの自体に、なるほど現象的には無限の変化を示しているかもしらぬが、本質的には自らにして基本的グラマーとでもいうべきものがあるからである。 __ Link __ 悪は決して無法でない。 __ Link __ そこでまずぼくの方で、彼らの悪のグラマーを一応心得てさえいれば、決して彼らは無軌道に、下手な剣術使いのような手では打ってこない。 __ Link __ むしろ多くの場合、彼らは彼らのグラマーが相手によっても心得られていると気づけば、その相手に対しては仕掛けをしないのが常のようである。 __ Link __
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