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作品の最後の一行に於(おい)て読者に背負い投げを食わせるのは、あまりいい味のものでもなかろう。
所謂(いわゆる)「落ち」を、ひた隠しに隠して、にゅっと出る、それを、並々ならぬ才能と見做(みな)す先輩はあわれむべき哉(かな)。 太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948) 『如是我聞』(にょぜがもん) ※志賀直哉のこと
〈全文〉
これを書き終えたとき、私は偶然に、ある雑誌の座談会の速記録を読んだ。 それによると、志賀直哉という人が、「二、三日前に太宰君の『犯人』とかいうのを読んだけれども、実につまらないと思ったね。 始めからわかっているんだから、しまいを読まなくたって落ちはわかっているし……」と、おっしゃって、いや、言っていることになっているが、(しかし、座談会の速記録、或(ある)いは、インタヴィユは、そのご本人に覚えのないことが多いものである。 いい加減なものであるから、それを取り上げるのはどうかと思うけれども、志賀という個人に対してでなく、そういう言葉に対して、少し言い返したいのである) 作品の最後の一行に於(おい)て読者に背負い投げを食わせるのは、あまりいい味のものでもなかろう。 所謂(いわゆる)「落ち」を、ひた隠しに隠して、にゅっと出る、それを、並々ならぬ才能と見做(みな)す先輩はあわれむべき哉(かな)、 __ Link __ 芸術は試合でないのである。 奉仕である。 読むものをして傷つけまいとする奉仕である。 けれども、傷つけられて喜ぶ変態者も多いようだからかなわぬ。 __ Link __ あの座談会の速記録が志賀直哉という人の言葉そのままでないにしても、もしそれに似たようなことを言ったとしたなら、それはあの老人の自己破産である。 いい気なものだね。 うぬぼれ鏡というものが、おまえの家にもあるようだね。 「落ち」を避けて、しかし、その暗示と興奮で書いて来たのはおまえじゃないか。 なお、その老人に茶坊主の如く阿諛追従(あゆついしょう)して、まったく左様でゴゼエマス、大衆小説みたいですね、と言っている卑しく痩(や)せた俗物作家、これは論外。
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