若い男のお客さんにお茶を差出す時なんか、緊張のあまり、お茶碗をひっくり返したりする実に可愛い娘さんがいるものだが、あんなのが、まあ女性の手本と言ってよい。
太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948) 『花吹雪』 黄村先生のセリフ 【 太宰治の名言 】
〈全文〉
先日、私は近所の高砂館へ行って久し振りに活動を見て来たが、なんとかいう旧劇にちょっといい場面が一つありました。 若侍が剣術の道具を肩にかついで道場から帰る途中、夕立になって、或(あ)る家の軒先に雨宿りするのですが、その家には十六、七の娘さんがいてね、その若侍に傘(かさ)をお貸ししようかどうしようかと玄関の内で傘を抱いたままうろうろしているのですね。 あれは実に可愛かった。 私はあの若侍を嫉妬しました。 女は、あのようでなければいけない。 若い男のお客さんにお茶を差出す時なんか、緊張のあまり、君たちの言葉を遣(つか)えば、つまり、意識過剰という奴をやらかして、お茶碗をひっくり返したりする実に可愛い娘さんがいるものだが、あんなのが、まあ女性の手本と言ってよい。
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