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[ 名言 ]
(物事の)味は説明したところで他の人にわかるものではない。
味わうのはそれぞれの当人なのであるから、当人が味わうはたらきをしない限り、ほかからはなんともいたし方がない。

[ 出典 ]
和辻哲郎[わつじ・てつろう]
(哲学者・倫理学者、1889〜1960)
随筆『露伴先生の思い出』

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〈全文〉
関東大震災の前数年の間、先輩たちにまじって露伴先生から俳諧の指導をうけたことがある。
その時の印象では、先生は実によく物の味のわかる人であり、またその味を人に伝えることの上手な人であった。
俳句の味ばかりでなく、釣りでも、将棋でも、その他人生のいろいろな面についてそうであった。

そういう味は説明したところで他の人にわかるものではない。
味わうのはそれぞれの当人なのであるから、当人が味わうはたらきをしない限り、ほかからはなんともいたし方がない。
__ Link __

先生は自分で味わってみせて、その味わい方をほかの人にも伝染させるのであった。
たとえばわかりにくい俳句などを「舌の上でころがしている」やり方などがそれである。

わかろうとあせったり、意味を考えめぐらしたりなどしても、味は出てくるものではない。
だから早く飲み込もうとせずに、ゆっくりと舌の上でころがしていればよいのである。
そのうちに、おのずから湧然(ゆうぜん)として味がわかってくる。
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そういうやり方が、先生と一座していると、自然にうつってくるのであった。


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