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801.
夕蝉(ゆうぜみ)のやかましからぬ音と聞けり
（ 高澤良一 ）
（ Takazawa Yoshikazu ）
802.
もの書けば余白の生まれ秋隣
（ 藤井あかり ）
（ Fujii Akari ）
803.
美しきところへ沈む夏夕日
（ 河内静魚 ）
（ Kawauchi Shizuo ）
804.
石上に置く透明な夏帽子
（ 宇多喜代子 ）
（ Uda Kiyoko ）
805.
ががんぼに偲(しの)ぶ故人のありにけり
（ 下村槐太 ）
（ Shimomura Kaita ）
806.
花菖蒲(しょうぶ)夜明けの色を剪(き)つて来る
（ 金箱戈止夫 ）
（ Kanebako Kashio ）
807.
干草(ほしくさ)や笑つておけば愉快な日
（ 佐藤文香 ）
（ Satou Ayaka ）
808.
枇杷(びわ)の実を空からとつてくれしひと
（ 石田郷子 ）
（ Ishida Kyouko ）
809.
夕焼は一段低く空にあり
（ 河内静魚 ）
（ Kawauchi Shizuo ）
810.
炎天といのちの間にもの置かず　
（ 齋藤玄 ）
（ Saitou Gen ）
811.
赤と青闘つてゐる夕焼かな
（ 波多野爽波 ）
（ Hatano Souha ）
812.
水風呂にそろり七月来たりけり
（ 竪阿彌放心 ）
（ Tateami Houshin ）
813.
停留所まで豆腐屋の打水(うちみず)は
（ 佐藤文香 ）
（ Satou Ayaka ）
814.
麦の穂や総身(そうしん)風にめぐらるる
（ 下村槐太 ）
（ Shimomura Kaita ）
815.
寝返りを打ちてそろそろ昼寝覚(ざ)め
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
816.
箱庭の人に古(ふ)りゆく月日かな
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）
817.
積み上げし書物くづれて百足(むかで)かな
（ 永井荷風 ）
（ Nagai Kafuu ）
818.
梅漬けて赤き妻の手夜(よ)は愛す
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
819.
女人(にょにん)高邁(こうまい)芝青きゆゑ蟹は紅(あか)く
（ 竹下しづの女 ）
（ Takeshita Sizunojo ）
820.
月見草灯(ひ)よりも白し蛾をさそふ
（ 竹下しづの女 ）
（ Takeshita Sizunojo ）
821.
海に着くまで西瓜(すいか)の中の音聴きぬ
（ 佐藤文香 ）
（ Satou Ayaka ）
822.
牡丹(ぼたん)散りて打(うち)かさなりぬ二三片
（ 与謝蕪村 ）
（ Yosano Buson ）
823.
我熟す寂しさ熟す西日(にしび)燦(さん)
（ 永田耕衣 ）
（ Nagata Koui ）
824.
夕焼や裁かるゝごと木にもたれ
（ 川口重美 ）
（ Kawaguchi Shigemi ）
825.
二つ三つ淋しき雨の蛍かな
（ 安藤橡面坊 ）
（ Andou Tochimenbou ）
826.
月に飛び月の色なり草かげろふ
（ 中村草田男 ）
（ Nakamura Kusatao ）
827.
梅干すといふことひとつひとつかな
（ 石田郷子 ）
（ Ishida Kyouko ）
828.
うすぐらくあるふるさとの夏座敷
（ 下村槐太 ）
（ Shimomura Kaita ）
829.
夜いたく更(ふ)けてふたたび蚊食鳥(かくいどり)
（ 下村槐太 ）
（ Shimomura Kaita ）
830.
鳴かぬなら　鳴かしてみよう　ほととぎす
（ 作者不詳 ）

831.
鳴かぬなら　殺してしまえ　ほととぎす
（ 作者不詳 ）
832.
鳴かぬなら　鳴くまで待とう　ほととぎす
（ 作者不詳 ）
833.
郭公(かっこう)や道はつらぬく野と雲を
（ 堀口星眠 ）
（ Horiguchi Seimin ）
834.
昨年(きょねん)よりも老いて祭(まつり)の中通る
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
835.
翡翠(かわせみ)の淵掠(かす)めしを見下(みおろ)しに
（ 中村草田男 ）
（ Nakamura Kusatao ）
836.
夕立に小石のふえし道帰る
（ 篠原梵 ）
（ Shinohara Bon ）
837.
ありあまる時間の中に浮巣見る
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
838.
あぢさゐや斜めの雨は見えやすし
（ 河内静魚 ）
（ Kawauchi Shizuo ）
839.
笑ひたる声の残れる桐の花
（ 石田郷子 ）
（ Ishida Kyouko ）
840.
グラジオラスゆるるは誰か来るごとし
（ 永田耕一郎 ）
（ Nagata Kouichirou ）

841.
彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に
（ 今井千鶴子 ）
（ Imai Chizuko ）
842.
二階より地のひるがおを吹く友や
（ 安井浩司 ）
（ Yasui Kouji ）
843.
突風の涼しさは子の高笑ひ
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）
844.
本当の暑さの待ってゐる暑さ
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
845.
炎熱や勝利の如き地の明るさ
（ 中村草田男 ）
（ Nakamura Kusatao ）
846.
あるがまま気ままに生きて髪洗ふ
（ 大平保子 ）
（ Oohira Yasuko ）
847.
夏の雨　明るくなりて　降り続く
（ 星野立子 ）
（ Hoshino Tatsuko ）
848.
夏の月いま上りたるばかりかな
（ 久保田万太郎 ）
（ Kubota Mantarou ）
849.
僕のほかに腐るものなく西日の部屋
（ 福田若之 ）
（ Fukuda Wakayuki ）
850.
おのづから水葬となる海月かな
（ 金子敦 ）
（ Kaneko Atsushi ）

851.
夕蝉(ゆうぜみ)の鳴きほそりつゝ澄みゐしが
（ 中尾白雨 ）
（ Nakao Hakuu ）
852.
炎天下亡き友の母歩み来る
（ 大串章 ）
（ Oogushi Akira ）
853.
端居(はしい)してたゞ居る父の恐ろしき
（ 高野素十 ）
（ Takano Sujuu ）
854.
来てすぐに気に入つてゐる避暑地かな
（ 波多野爽波 ）
（ Hatano Souha ）
855.
一夏の詩稿を浪に棄つべきか
（ 山口誓子 ）
（ Yamaguchi Seishi ）
856.
たぐりよす面影ひとつ遠花火
（ 大橋夏生 ）
857.
西日さしそこ動かせぬものばかり
（ 波多野爽波 ）
（ Hatano Souha ）
858.
真つ直ぐに闇を上(のぼ)つてゆく花火
（ 岸田祐子 ）
859.
空に伸ぶ花火の途(みち)の曲りつゝ
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）
860.
牡丹(ぼたん)の句百句作れば死ぬもよし
（ 原石鼎 ）
（ Hara Sekitei ）

861.
虹の環を以(もっ)て地上のものかこむ
（ 山口誓子 ）
（ Yamaguchi Seishi ）
862.
新緑やわがはらわたも緑さす
（ 行方克巳 ）
（ Namekata Katsumi ）
863.
花火尽き背後に戻る背後霊
（ 加藤静夫 ）
（ Katou Shizuo ）
864.
古庭を魔になかへしそ蟇(ひきがえる)
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）
865.
夏帽子心足る日を重ねけり
（ 広瀬直人 ）
866.
夕立のだんだんオーケストラ気分
（ 薮ノ内君代 ）
867.
夕蝉(ゆうぜみ)のいつほどとなく日のつまる
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）
868.
くるくると猫に遊ばれ火取虫(ひとりむし)
（ 加藤克 ）
869.
結ひ上げて勝気ちらりと祭髪
（ 河原淑 ）
（ Kawara Yoshi ）
870.
蚰蜒(げじげじ)といふ字は覚えおく気なし
（ 北野平八 ）
（ Kitano Heihachi ）

871.
紅(べに)さいた口もわするゝしみづかな
（ 加賀千代女 ）
（ Kagano Chiyojo ）
872.
火取虫(ひとりむし)男の夢は瞑るまで
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
873.
夏雲の湧きてさだまる心あり
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）
874.
如何(いか)な日もひとりはさびし青芒(あおすすき)
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）
875.
立ち昇る雲なり鉄砲百合ひらく
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
876.
夏草や坐れば小さき湖の音
（ 加藤喜代子 ）
（ Katou Kiyoko ）
877.
水飯(すいはん)に浅づけゆかし二日酔
（ 三浦樗良 ）
（ Miura Chora ）
878.
痩せてゐて案外暑きこと平気
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
879.
旅のあと昼寝に生を養へり
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
880.
蟇(ひき)交(つる)む似たやうな顔うち重ね
（ 岩田由美 ）

881.
水踏んでゐるさびしさの立泳ぎ
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
882.
そら豆のやうな顔してゐる子かな
（ 星野高士 ）
（ Hoshino Takashi ）
883.
清水(しみず)のめば汗軽(かろ)らかになりにけり
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）
884.
鰊(にしん)そばうまい分だけ我は死す
（ 永田耕衣 ）
（ Nagata Koui ）
885.
森落葉見つむる木菟(ずく)の眼やあらむ
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
886.
雲の峰わが若き日の亡霊よ
（ 八田木枯 ）
（ Hatta Kogarashi ）
887.
青葦(あおあし)の囁(ささや)きやまず端居(はしい)かな
（ 竹下しづの女 ）
（ Takeshita Sizunojo ）
888.
つつまれてゐて薔薇の香を 忘れをり
（ 今橋眞理子 ）
（ Imahashi Mariko ）
889.
一すぢの道はまよはぬ夏野かな
（ 五升庵蝶夢 ）
（ Goshouan Choumu ）
890.
火に恋し火に燃ゆるなり火取虫
（ 小栗釣月 ）

891.
道流れ山の雨なり夕端居(はしい)
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
892.
ふるさとの風の味して新茶かな
（ 今橋眞理子 ）
（ Imahashi Mariko ）
893.
まづ扇使ふことより落著きぬ
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
894.
風鈴のもつるるほどに涼しけれ
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）
895.
今日よりはとやかく言はず夏帽子
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
896.
白地(しろじ)着て行くところみな遠からず
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
897.
水飯(すいはん)や簾(すだれ)捲(ま)いたる日の夕(ゆうべ)
（ 尾崎紅葉 ）
（ Ozaki Kouyou ）
898.
夢の中で夢を見てゐるし明易(あけやす)し
（ 福神規子 ）
（ Fukujin Noriko ）
899.
濁りなき白に力や雲の峰
（ 今橋眞理子 ）
（ Imahashi Mariko ）
900.
蟇(ひき)歩くさみしきときはさみしと言へ
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）

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