〈全文〉
愛しあわなければ
わたしたちは死ぬしかない。
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白い紙にそう刻んだのは、
W・H・オーデンだった。
だが、間違いだった。と詩人は言った。

本当は、こう書くべきだった。
わたしたちはたがいに愛しあい、
そして死ぬしかない、と。
わたしたちは、みな、
死すべき存在なのだから。
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それでも不正確だ、と詩人は言った。
不正確というより不誠実だ、と。

たぶん、そうだと思う。
わたしたちは、そのように
愛について、また、死について、
糺(ただ)すように、書くべきでない。
晩秋深夜、W・H・オーデンを読む。

詩人の仕事とは、何だろう？
無残なことばをつつしむ仕事、
沈黙を、ことばでゆびさす仕事だ。
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人生は受容であって、戦いではない。
戦うだとか、最前線だとか、
戦争のことばで、語るのはよそう。
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たとえ愚かにしか、生きられなくても
愚かな賢者のように、生きようとは思わない。
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We must love one another or die.
わたしたちは、
愚か者として生きるべきである。
賢い愚か者として生きるべきである。
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明窓半月、本を置いて眠る。