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[ 名言 ]
日々にあってひとを活かしているのは、どうということもないものだ。
日々を横切る明るい無名の一瞬の記憶なのだ。

[ 出典 ]
長田弘[おさだ・ひろし]
(詩人、1939〜2015)
「鳥の影」と題する文章

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長田弘
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〈全文〉
路地を歩いていたら、葉をすっかり落とした木の細い枝に、ちいさな鳥が二羽とまっていた。
何という鳥かわからなかったので、立ちどまって、そのまま黙って見あげていた。
鳥の影のむこうにひろがる秋の空が、びっくりするほどきれいだった。


ただそれだけのことだ。
ただそれだけだったが、なんだかひどく明るい気分になった。
ただそれだけの何でもないことで、ふっとこころが開かれる瞬間がある。
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それは、今日のことではない。
もう何年もまえの、ある秋の日のことだ。

ニュースでもなく、話題でもなく、情報でもないもので、日々にどうしても必要なものがある。
そのときはそうと気づかない。
けれども、ずっと後になって、じぶんのなかに、ふいにくっきりとよみがえってくる一瞬の光景がある。
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日々にあってひとを活かしているのは、どうということもないものだ。
日々を横切る明るい無名の一瞬の記憶なのだ。
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