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301.
大瓢(おおふくべ)無用の用に乾(ほ)されけり
（ 安藤橡面坊 ）
（ Andou Tochimenbou ）
302.
良夜かな人すれ違ひすれ違ひ
（ 長嶺千晶 ）
（ Nagamine Chiaki ）
303.
夜寒(よさむ)さや吹けば居すくむ油虫
（ 富田木歩 ）
（ Tomita Moppo ）
304.
名月をとってくれろとなく子かな
（ 小林一茶 ）
（ Kobayashi Issa ）
305.
きらきらと目だけが死なず鬼やんま
（ 加藤楸邨 ）
（ Katou Shuuson ）
306.
八月や生きていしかばいつか死ぬ
（ 池田澄子 ）
（ Ikeda Sumiko ）
307.
うき人を又くどきみん秋のくれ
（ 向井去来 ）
（ Mukai Kyorai ）
308.
紅茸や旅人はただ美しとのみ
（ 大串章 ）
（ Oogushi Akira ）
309.
かく小さき葉にも紅葉(もみじ)の色分けて
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
310.
しらじらと明けきし朝の薄紅葉
（ 山田六甲 ）
（ Yamada Rokkou ）
311.
天の川素直になれば見えてきし
（ 大串章 ）
（ Oogushi Akira ）
312.
紅葉で神が染めたる天地かな
（ 小林凛 ）
（ Kopbayashi Rin ）
313.
われを見る机上の筆や秋の風
（ 飯田蛇笏 ）
（ Iida Dakotsu ）
314.
肘(ひじ)に来て耳に来て秋風となる
（ 岩岡中正 ）
（ Iwaoka Nakamasa ）
315.
かたつむり紅葉(もみじ)の中に老いにけり
（ 大串章 ）
（ Oogushi Akira ）
316.
行秋(ゆくあき)の風となりたる人のこと
（ 岩岡中正 ）
（ Iwaoka Nakamasa ）
317.
かなしみを紅葉(もみじ)明りに語りつぎ
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）
318.
鳥に覚め虫に暮れゆく一日(ひとひ)かな
（ 小林榮子 ）
（ Kobayashi Eiko ）
319.
葡萄(ぶどう)食ふ一語一語の如(ごと)くにて
（ 中村草田男 ）
（ Nakamura Kusatao ）
320.
倒れ木の下の虫の音(ね)一列に
（ 中村草田男 ）
（ Nakamura Kusatao ）
321.
無花果(いじちぐ)の中に微細な星あまた
（ 金子敦 ）
（ Kaneko Atsushi ）
322.
尻なでて落馬さするな花すすき
（ 向井去来 ）
（ Mukai Kyorai ）
323.
栗さげて父情おろかに子へ急ぐ
（ 那須乙郎 ）
（ Nasu Otsurou ）
324.
秋富士のまとへる雲のすぐちりぬ
（ 鈴鹿野風呂 ）
（ Suzuka Noburo ）
325.
よそほへば病なきごと妻の秋
（ 大峯あきら ）
（ Oomine Akira ）
326.
柿の皮さらさら剥けて母恋し
（ 竹田喜義 ）
327.
爽やかに山を語りて夫飽かず
（ 長嶺千晶 ）
（ Nagamine Chiaki ）
328.
見えさうな金木犀(きんもくせい)の香なりけり
（ 津川絵理子 ）
（ Tsugawa Eriko ）
329.
子を負うて肩のかろさや天の川
（ 竹下しづの女 ）
（ Takeshita Sizunojo ）
330.
ありがたき空気や水や小鳥来る
（ 三橋敏雄 ）
（ Mitsuhashi Toshio ）

331.
日あたりや熟柿(じゅくし)の如き心地あり
（ 夏目漱石 ）
（ Natsume Souseki ）
332.
痩身(そうしん)の夫蟷螂(とうろう)に狙はるる
（ 篠崎央子 ）
（ Shinozaki Hisako ）
333.
永劫(えいごう)の如(ごと)し秋夜(しゅうや)を点滴す
（ 日野草城 ）
（ Hino Soujou ）
334.
鰯雲(いわしぐも)人に告ぐべきことならず
（ 加藤楸邨 ）
（ Katou Shuuson ）
335.
秋風や長方形の空っぽで
（ 中村十朗 ）
（ Nakamura Juurou ）
336.
白露(しらつゆ)に阿吽(あうん)の旭さしにけり
（ 川端茅舎 ）
（ Kawabata Bousha ）
337.
たいがいのことはひとごと秋の風
（ 池田澄子 ）
（ Ikeda Sumiko ）
338.
妻と酌(く)む妻は佛(ほとけ)や温め酒(ぬくめざけ)
（ 森澄雄 ）
（ Mori Sumio ）
339.
敗戦日みんな死なない顔してる
（ 椎野恵子 ）
（ Shiino Keiko ）
340.
夏永しヒロシマ・ナガサキやられし日
（ 三橋敏雄 ）
（ Mitsuhashi Toshio ）

341.
さうかもうもらつた桃は食べたのか
（ 田代青山 ）
（ Tashiro Seizan ）
342.
塩効いて秋風冷す握り飯
（ 秋元不死男 ）
（ Akimoto Fujio ）
343.
大粒の涙のやうに木の実落つ
（ 石田郷子 ）
（ Ishida Kyouko ）
344.
ひと巡りする間(ま)も進む薄紅葉(うすもみじ)
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
345.
変り易ければ秋天また期待
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
346.
ある時は淋しき花と蘭を活け
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
347.
湖がうかび上つてくる花野
（ 京極杞陽 ）
（ Kyougoku Kiyou ）
348.
とどめざる色の華やぎ草紅葉(くさもみじ)
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
349.
爽やかに歩けるうちは山路(やまじ)など
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
350.
盆踊り人に生まれて手を叩く
（ 岩淵喜代子 ）
（ Iwabuchi Kiyoko ）

351.
蟷螂の怒るほかなき青全身
（ 加倉井秋を ）
（ Kakurai Akio ）
352.
秋蝶のものちる如く舞ひをさむ
（ 高木晴子 ）
（ Takagi Haruko ）
353.
後(のち)の月何か肴(さかな)に湯気(ゆげ)のもの
（ 黒柳召波 ）
（ Kuroyanagi Shouha ）
354.
老らくの恋てふ夜長さびしかり
（ 大平保子 ）
（ Oohira Yasuko ）
355.
渋柿のごときものにては候(そうら)へど
（ 松根東洋城 ）
（ Matsune Touyoujou ）
356.
鵙(もず)啼くや一番高い木のさきに
（ 正岡子規 ）
（ Masaoka Shiki ）
357.
稲妻のかきまぜて行(いく)やみよかな
（ 向井去来 ）
（ Mukai Kyorai ）
358.
ほゝづきのわかき青さや魂(たま)まつり
（ 鈴木真砂女 ）
（ Suzuki Masajo ）
359.
朝露のふるればこぼる楽しさに
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
360.
とどまればあたりにふゆる蜻蛉(とんぼ)かな
（ 中村汀女 ）
（ Nakamura Teijo ）

361.
つぶら目の瞠(みは)れるごとき栗届く
（ 嶋崎茂子 ）
（ Shimazaki Shigeko ）
362.
独り泣くいつの間にやら虫が鳴く
（ 如月はつか ）
363.
鈴虫の向かひ合うては鳴かざりき
（ 宮本佳世乃 ）
（ Miyamoto Kayano ）
364.
秋蝶のゆきどころないように其処(そこ)
（ 池田澄子 ）
（ Ikeda Sumiko ）
365.
死なない老人朝顔がうごき咲(さき)
（ 八田木枯 ）
（ Hatta Kogarashi ）
366.
夕月を見ればながむるわが心
（ 京極杞陽 ）
（ Kyougoku Kiyou ）
367.
やまびこの秋の色して戻りけり
（ 工藤進 ）
（ Kudou Susumu ）
368.
おのれいまおのれのなかに草紅葉
（ 森澄雄 ）
（ Mori Sumio ）
369.
かゝる夜の月も見にけり野辺送(のべおくり)
（ 向井去来 ）
（ Mukai Kyorai ）
370.
富士見せてくれし霧又富士かくす
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）

371.
紅茸(べにたけ)を恐れてわれを恐れずや
（ 西東三鬼 ）
（ Saitou Sanki ）
372.
かなかなや少年の日は神のごとし
（ 角川源義 ）
（ Kadokawa Genyoshi ）
373.
森林の豊かな国よ茸汁(きのこじる)
（ 越智淳子 ）
（ Ochi Junko ）
374.
見うしなふ落葉の中の紅葉(もみじ)かな
（ 武原はん女［武原はん］ ）
（ Takehara Han ）
375.
とどまるもとどまらざるも秋の雲
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）
376.
爽やかに鼻あり顔の真ん中に
（ 小西昭夫 ）
（ Konishi Akio ）
377.
看取りにも終る日のあり秋夕焼
（ 今井千鶴子 ）
（ Imai Chizuko ）
378.
野仏の顔へ蟷螂(とうろう)鎌立つる
（ 奥村眞人 ）
（ Okumura Mahito ）
379.
死事(しぬこと)としらで下るや瀬々(せぜ)の鮎
（ 向井去来 ）
（ Mukai Kyorai ）
380.
風去れば色とり戻す秋桜(あきざくら)
（ 稲畑汀子 ）
（ Inahata Teiko ）

381.
思い出の余白に小鳥来てをりぬ
（ 金子敦 ）
（ Kaneko Atsushi ）
382.
染(そめ)あへぬ尾のゆかしさよ赤蜻蛉(あかとんぼ)
（ 与謝蕪村 ）
（ Yosano Buson ）
383.
握りしめ温(ぬく)きどんぐり子の土産
（ 谷川水馬 ）
384.
夕日影町一ぱいのとんぼ哉(かな)
（ 小林一茶 ）
（ Kobayashi Issa ）
385.
花の時は気づかざりしが老母草(おもと)の実
（ 黒柳召波 ）
（ Kuroyanagi Shouha ）
386.
一樹一石おろそかならず秋の天
（ 米田双葉子 ）
（ Yoneda Souyoushi ）
387.
欠伸(あくび)して鳴る頬骨や秋の風
（ 内田百閒 ）
（ Uchida Hyakken ）
388.
無花果(いじちぐ)や血族といふ喪服の群(むれ)
（ 長嶺千晶 ）
（ Nagamine Chiaki ）
389.
秋風やカレー一鍋すぐに空　　
（ 辻桃子 ）
（ Tsuji Momoko ）
390.
うつくしや障子の穴の天の川
（ 小林一茶 ）
（ Kobayashi Issa ）

391.
割れやすきものの音充ち銀河系
（ 折笠美秋 ）
（ Orisaka Bishuu ）
392.
絵簾(えすだれ)の蟲(むし)が鳴くかと思ひけり
（ 三橋鷹女 ）
（ Mitsuhashi Takajo ）
393.
障子しめて四方の紅葉(もみじ)を感じをり
（ 星野立子 ）
（ Hoshino Tatsuko ）
394.
盆は皆に逢うて踊つて一夜きり
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
395.
夜(よる)長し死者と交はる夜もありて
（ 大野林火 ）
（ Oono Rinka ）
396.
蟋蟀(こほろぎ)の孔子顔してゐたりけり
（ 田代青山 ）
（ Tashiro Seizan ）
397.
遊び着を買ふ秋麗にさそはれて
（ 能村登四郎 ）
（ Nomura Toshirou ）
398.
亡き友肩に手をのするごと秋日ぬくし
（ 中村草田男 ）
（ Nakamura Kusatao ）
399.
落?(おちぜみ)をひとつだけ弔(ともら)ひにけり
（ 藤井あかり ）
（ Fujii Akari ）
400.
老(おい)の頬(ほ)に紅(くれない)潮(さ)すや濁り酒
（ 高浜虚子 ）
（ Takahama Kyoshi ）

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