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人の指先だけ見ていては
その人の指す当先(あてさき)に眼が遣(や)れない。 河野与一[こうの・よいち]
(哲学者、翻訳家、1896〜1984) 『学問の曲り角』
〈全文〉
単語の意味というものは、 柿か栗のように 皮を剥(む)いたり殻を割ったりして 覗(のぞ)くと中に入っている内実(なかみ)ではない。 寧(むし)ろ外に向って 矢のように何処(どこ)かを指しているか、 繋がって先へ延びる糸のように 何かに結び附いている。 __ Link __ 人の指先だけ見ていては その人の指す当先(あてさき)に眼が遣(や)れない。 __ Link __ そういう矢や糸が 限(かぎり)無く多く入り乱れ、 縺(もつ)れ合い、 しかもうねりながら動いているのである。 その筋道を辿(たど)るためには 相当慣れていなければならない。 そこに身を浮ばせて、 それこそ波のまにまに泳いで行くには、 体の、つまり頭の捻(ひね)り方が大事である。 およそ翻訳者たるものには、 自分が浮いて行くばかりでなく、 泳げない読者を浮かせて引張って行く義務がある。 __ Link __
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