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死にたくない命をも捨てなければならぬところに尊さがあるので、なんでもかんでも死にたくて、うろうろ死場所を捜し廻っているのは自分勝手のわがまま。

[ 出典 ]
太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948)
『花吹雪』

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〈全文〉
死は敢(あ)えて厭(いと)うところのものに非ず。
生き残った妻子は、ふびんなれども致し方なし。
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然(しか)れども今は、戦死の他の死はゆるされぬ。
故に怺(こら)えて生きて居るなり。
この命、今はなんとかしてお国の役に立ちたし。
この一箇条、敢えて剣聖にゆずらじと思うものの、また考えてみると、死にたくない命をも捨てなければならぬところに尊さがあるので、なんでもかんでも死にたくて、うろうろ死場所を捜し廻っているのは自分勝手のわがままで、ああ、この一箇条もやっぱり駄目なり。
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