死というものを常々考えもしない人はまずヌキにして、「死への親近感」から始まった人々が、ついに「生への意志」に到達するのがあくまでも人間的な生き方というものである。
北杜夫[きた・もりお]
(小説家・エッセイスト、精神科医、1927〜) 『どくとるマンボウ青春記』 〈全文〉
いま、この齢となって私が若い人に言えることは、自殺するならとにかく三十歳まで生きてみる、ということだ。 そこまで生きてからの思想上の死ならまだしも許せる。 青年の観念的な死への傾斜は人生の始まりであるが、一面から見ればその大部分がマヤカシであり、さもなければ病気である。 病気は治さねばならない。 死というものを常々考えもしない人はまずヌキにして、「死への親近感」から始まった人々が、ついに「生への意志」に到達するのがあくまでも人間的な生き方というものである。
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