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[ 名言 ]
私は飲酒というものを、罪悪であると思っている。
悪徳にきまっている。
けれども、酒は私を助けた。
私は悪徳のかたまりであるから、つまり、毒を以(もっ)て毒を制すというかたちになるのかも知れない。
酒は、私の発狂を制止してくれた。
私の自殺を回避させてくれた。

[ 出典 ]
太宰治[だざい・おさむ]
(明治〜昭和の作家、1909〜1948)
『鴎』(かもめ)

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〈全文〉
私はこれまで、何千升、何万升、の酒を呑んだことか。
いやだ、いやだ、と思いつつ呑んでいる。
私は酒がきらいなのだ。
いちどだって、うまい、と思って呑んだことが無い。
にがいものだ。
呑みたくないのだ。
よしたいのだ。
私は飲酒というものを、罪悪であると思っている。
悪徳にきまっている。
けれども、酒は私を助けた。
私は、それを忘れていない。
私は悪徳のかたまりであるから、つまり、毒を以(もっ)て毒を制すというかたちになるのかも知れない。
酒は、私の発狂を制止してくれた。
私の自殺を回避させてくれた。
私は酒を呑んで、少し自分の思いを、ごまかしてからでなければ、友人とでも、ろくに話のできないほど、それほど卑屈な、弱者なのだ。


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